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日本のヒップホップシーンに衝撃を与えた“センセーショナル”なクラシック。
名古屋“052”の雄、M.O.S.A.D.の名盤がついにデジタルリリース!

2002年に発表されたM.O.S.A.D.の1stフルアルバム「THE GREAT SENSATION」と、それに付随した2枚の先行シングル「FABULOUS(REMIX)」「If I...」。リリース時はタイトル通りの“特大センセーション”を巻き起こしたものの、実はその後、現在に至るまでデジタル配信はされていなかった。楽曲リリースの主流がCDなどのフィジカルメディアからデータ配信へと移行していくにつれ、ジャパニーズヒップホップシーンに大きく刻まれた作品ながらも手軽には触れにくい状況となっていたのだ。しかし、そんな作品群のリリースからちょうど20年の節目となる今年、ついにM.O.S.A.D.の作品のデジタル配信が解禁。これを機に、作品がリリースされた当時の背景と、今回の解禁が持つ意義について紐解いていきたい。

ご存知ない方のために最初に説明しておくと、M.O.S.A.D.(モサド)は名古屋を拠点とするヒップホップユニットだ。2004年に急逝したTOKONA-X(R.I.P.)を筆頭に、"E"qual、AKIRA、DJ FIXERから成る4人組で、ルーツたる芽吹きは90年代中期まで遡る。M.O.S.A.D.という名前自体が誕生したのは、2000年のことだ。

さて、M.O.S.A.D.が日本のヒップホップ史に与えた影響を語るにあたって、まずは1996年に東京・日比谷野外音楽堂で開催されたライブイベントに触れなければなるまい。故ECDが主催し、「さんピンCAMP」と銘打たれたこの歴史的イベントは、当時のジャパニーズヒップホップシーン最前線で活躍していたアーティストの大半が一堂に会するという超豪華なもの。開催後に発売されたビデオテープ(のちにDVD)やそのオリジナルサウンドトラックも含めて、日本中のヒップホップファンを虜にした大きな出来事だった。

一方、1996年と言えば国内における“シーン黎明期”で、その構図は完全なる“東京偏重”。各地方にも地元に根を張るアーティストたちが存在していたが、インターネットも普及していない時代の話だ。どうしても音源やライブ、そして情報は、“東京から地方へ”という一方通行になりがちだった。当時の“最前線=東京”で活躍する面々が集った「さんピンCAMP」もまた例外ではなく、自然な流れで同様の広がり方をしていたのである。

そんな「さんピンCAMP」に唯一の“地方勢”として出演したのが、DJ HAZU(現・刃頭)と、偶然に近い形で連れて行かれた無名時代のTOKONA-Xだ。彼らはライブ当日に急造のラップグループ、ILLMARIACHI(イルマリアッチ)を結成。息巻いてライブを披露したが、国内のヒップホップシーンは先述のように東京中心の状況ゆえ、観客の反応や映像作品における待遇を含めてTOKONA-Xは不当な扱いを受けたと感じたらしい。翌1997年にはその悔しさと思いの丈をリリックにぶつけ、ILLMARIACHIの1stアルバム「THA MASTA BLUSTA」を完成させた。関東勢によるもの以外で“ジャパニーズヒップホップシーンに認められた初めての作品”と言っても過言ではないこのアルバムは名盤と評され、結果として“東京偏重”のシーンに大きな風穴を開けたのだった。

時は前後するが、その「THA MASTA BLUSTA」からカットされた先行シングル“For Da Bad Boys & Ladies”にも、無名の若手ラッパーがフィーチャリングとして参加していた。彼こそが、EQUAL(現・"E"qual)だ。巧みにビートを乗りこなすラップスキルの高さや唯一無二の声質はたちまち話題となり、名古屋をはじめとした地方都市にも確実に存在するヒップホップシーンの“底深さ”を全国へと知らしめる1つのきっかけとなった。

ILLMARIACHIが開けた風穴から吹き込んだ新鮮な空気は、その後さまざまな地方で燻っていたアーティストたちを一斉に発火させたが、他ならぬ名古屋でも勢いが増していたところにAKIRAが登場する。1999年結成の名古屋のヒップホップクルー、BALLERSを率いたMASTERS OF SKILLZ(M.O.S.A.D.の前身)が、TOKONA-X、"E"qual、AKIRAの3人でその活動をスタートさせたのだった。彼らによる初にして唯一の12インチシングル「M.O.S. / E.A.T.」では耳に残るパンチラインを連発し、AKIRAはTOKONA-X や"E"qualに劣らぬ存在感を発揮。また、全国各地のホットなアクトを集めたコンピレーションアルバム「RAP WARZ DONPACHI」収録の「FABULOUS」(オリジナルver.はM.O.S.A.D.名義ではない)などでも、AKIRAはトレードマークの中毒性の高いルードなラップを吐き出し、ひと言で言えば“やんちゃ”だった彼ら3人のカラーを決定付けていた。

そして2000年、DJ FIXERをメンバーに加えて、ついにM.O.S.A.D.は姿を現した。強烈な個性を持つ3人のラッパーがグループとして結集したさまは、今思えばさながら“アベンジャーズ”だった。各々のキャラクターがしっかりと確立されたグループであったことは、のちに全員がソロアルバムをリリースしていることがなによりの象徴と言えるだろう。それに加えて3人のバランス感も絶妙で、具体的な言及は避けるが、ライブやクラブなどでのたち振る舞いにもそれぞれに“らしさ”を感じる逸話があるのだ。

イリーガルやセクシャルなトピックも包み隠さず、生々しいライフスタイルを露骨にリリックとして綴ったのも、日本ではM.O.S.A.D.が先駆けだ。ひとたびライブが始まれば、まるで本場アメリカのラップグループのそれを目の前で観ている感覚にさせられる。周囲とのトラブルも込みで「いつ何が起こるか分からない」という、ひりついた空気すら漂ったハードコアなM.O.S.A.D.のライブは、観ているだけでも緊張で背筋を正された。しかし、同時に観客を強く魅了していった。そしてその集大成こそ、アルバム「THE GREAT SENSATION」なのである。

2004年に急逝したTOKONA-Xはかつて、DJ RYOW名義の楽曲「Who Are U?」の曲中で「オレがアイドル? 願ったりだて まあ とっくに辞めとるて まあ んなもんに成れとりゃな」と歌っている。しかし、当時の彼らを生で見ていた立場からすれば、M.O.S.A.D.が憧れの存在だったことに疑う余地などない。そればかりか、名古屋を拠点に活動している、または名古屋に縁のあるアーティストたちですらM.O.S.A.D.に衝撃を受け、少なからず影響されたと公言しているのが現実だ。もちろん現在は彼らもそれぞれが自らのアートフォームを追求し、新たなファンやフォロワーを多く生んでいる。しかし、その礎にM.O.S.A.D.が生み出したものが多少なりとも影響しているのだとしたら、やはり歴史的価値は高いと言えるはずだ。

若年層が主役のカルチャーだと言われているヒップホップにおいて、将来的に新たなうねりを生み出していくのは紛れもなく次の世代である。M.O.S.A.D.の音源たちは、そんな彼らがまだ幼かった頃、あるいは産まれる以前にリリースされたヒップホップクラシックだが、そんなクラシックに影響されたアーティストたちが今はシーンの最前線で大いに活躍している。その事実が象徴するように、ジャパニーズヒップホップカルチャーが正当に進化し歴史を積み重ねていくうえで、こういった時代ごとのマスターピースがしっかりと継承されていくことには額面以上に大きな意義があるのだ。

Text by Kazuhiro Yoshihashi

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Single「Fabulous REMIX」

1st. Single「FABULOUS(REMIX)」

1. Fabulous [REMIX]
Produced by “E”qual, DJ RYOW
Lyrics by Tokona-X, “E”qual, Akira

2. Super Ball 2002 feat. Watt & Sygnal
Produced by Fixer
Lyrics by Tokona-X, “E”qual, Akira, Watt, Sygnal

3. Cold Game feat. Phobia of Thug & Kalassy Nikoff
Produced by DJ 4-Side
Lyrics by Tokona-X, “E”qual, Akira, Ganxta Cue, Mr.OZ, Kalassy Nikoff

Single「If I …」

2nd. Single「If I...」

1. If I ...
Produced by “E”qual, DJ RYOW
Lyrics by Tokona-X, “E”qual, Akira

2. Dopeman
Produced by DOPEMAN
Lyrics by Tokona-X, “E”qual, Akira

3. Custro the Second feat. U
Produced by “E”qual, DJ Abu
Lyrics by “E”qual, U

Album「THE GREAT SENSATION」

1st Album「THE GREAT SENSATION」

01. Intro feat. K.K, U.X.I
Produced by “E”qual
Lyrics by Tokona-X, “E”qual, Akira, K.K, U.X.I

02. Super Ball 2002 feat. Watt & Sygnal
Produced by Fixer
Lyrics by Tokona-X, “E”qual, Akira, Watt, Sygnal

03. What's Mother Fuckin' Name feat. Sygnal
Produced by “E”qual, DJ RYOW
Lyrics by Tokona-X, “E”qual, Akira, Sygnal

04. IF I...
Produced by “E”qual, DJ RYOW
Lyrics by Tokona-X, “E”qual, Akira

05. E.A.T. feat. G-Conqueror
Produced by “E”qual, DJ RYOW
Lyrics by Tokona-X, “E”qual, Akira, G-Conqueror

06. Perfect Game feat. Ganxta Cue, Mr.OZ
Produced by “E”qual, DJ RYOW
Lyrics by Tokona-X, “E”qual, Akira, Ganxta Cue, Mr.OZ

07. Right Now Liner (Skit)

08. Right Now Liner
Produced by “E”qual, DJ RYOW
Lyrics by Tokona-X, “E”qual, Akira

09. Mobb Sters feat. Maccho
Produced by “E”qual, DJ RYOW
Lyrics by Tokona-X, “E”qual, Akira, Maccho

10. Dopeman
Produced by DOPEMAN
Lyrics by Tokona-X, “E”qual, Akira

11. Sweepers feat. B-ninjah & AK-69, Kalassy Nikoff
Produced by “E”qual
Lyrics by Tokona-X, “E”qual, Akira, B-ninjah, AK-69, Kalassy Nikoff

12. On The Road feat. Watt
Produced by “E”qual, DJ RYOW
Lyrics by Tokona-X, “E”qual, Akira, Watt

13. Custro the Second feat. U
Produced by “E”qual, DJ Abu
Lyrics by “E”qual, U

14. Young Gunz (Skit)

15. Ballers Back
Produced by “E”qual
Lyrics by Tokona-X, “E”qual, Akira

16. Cold Game feat. Phobia of Thug & Kalassy Nikoff
Produced by DJ 4-Side
Lyrics by Tokona-X, “E”qual, Akira, Ganxta Cue, Mr.OZ, Kalassy Nikoff

[Staff Credit]

Produced by M.O.S.A.D.(“E”qual, AKIRA, TOKONA-X, DJ FIXER)

Recorded & Mixed : Takashi Akaku for Syn, Nagase for ATB Sound, Tomohiro Yamaguchi for Vetix, ALG for ALG Studio, Masafumi Iwasaki for Full House
Masterd : Takako Watanabe for ABS mastering room

Photography : Tomohiko Banno, Yotchin(坂野写真事務所)
Art Direction : ymky(office pcycho)

A&R, Media & Sales Promotion : Tomoko Sakakibara, Satoshi Goto
Fund Coordination, Legal Affairs : Yasuaki Tani
Executive Producer : Masami Komatsu

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名古屋“052”を拠点とするヒップホップユニット、M.O.S.A.D.(モサド)は、TOKONA-X(2004年に急逝)、"E"qual、AKIRAの3MCで結成したMASTERS OF SKILLZがその原型。1999年に、MASTERS OF SKILLZ名義で12インチシングル「M.O.S. / E.A.T.」をリリース。別名義(TOKONA-X feat. EQUAL, AKIRA)で参加したコンピレーションアルバム収録曲「FABULOUS」などを経て、2000年にグループ名をM.O.S.A.D.に改名。同時にDJ FIXERをメンバーに加えて4人体制となった。2002年には、日本のヒップホップシーンに大きな衝撃を与えた1stフルアルバム「THE GREAT SENSATION」を発表。DJ RYOWらも所属するヒップホップクルー・BALLERSを率いながら、名古屋のヒップホップを全国に知らしめた。その後も、M.O.S.A.D.として数多くの客演をこなすなど精力的に活動。各々の個性がしっかりと確立されたグループである彼らは、その象徴として、のちにラッパー全員がソロデビューも果たしている。